建築をやわらかくするもの


先週とはうってかわって気持ちのよいお天気ですね。
こんにちは!
まずはお知らせから。


 ゴールデンウィーク中は暦通りで
 5月2日(土)〜6日(水)までお休みいただく予定です。
 お休み中はメールで連絡いただけるとありがたいです。
 どうぞよろしくお願い致します。



義両親の家+事務所ができてから丸2年になるのですが
庭の木々が落ち着いてきて、モリモリ成長しています。
今はお義母さんご自慢の黄色いモッコウバラが花盛りで
太陽の光を浴びてまぶしく咲き誇っています。


事務所のわたしの机のちょうど目の前には
これを切り取るように横長の窓があり
窓を開けるとそよ風とともに、ほのかに甘いバラの香りが。



↑遠くからみると「黄色いムック(ポンキッキ)」みたいかも。
竣工当時、強すぎるか?と思った建築のエッジが
ずいぶんやわらかくなってきました。



さて。
前回アップした韓国旅行記を読んだオット曰わく
「とても建築をやっている人とは思えないほど
書いてることの大半が食べ物で終わってるよね。
そして、梨花大のECC昌徳宮のことが
ビックリするほどないがしろにされてるよね。」
・・・(思いあたるだけに何もいえない)・・・
ということで、少し追記を。



まずは昌徳宮(チャンドックン)について。


ソウル市内には王政だったころの宮殿が
いくつか残されているのですが
その中の一つであるこの昌徳宮は
もっとも保存状態がよいそうです。
勝手に見回ることはできないので
いくつかのグループに分かれてツアー形式でまわります。
日本語でガイドしてくれます。(無料)


ものすごーく広いです。
すべて見回るのに1時間半はかかります。
中でも一番興味深かったのはかなり奥の方にあった
木造のこの一角。




床はすべてオンドル(韓国の伝統的床暖房)になっています。
内装は床も壁も紙。
素朴な雰囲気の中に品のあるたたずまいで
いかにも韓国という雰囲気でした。


特にいいな、と思ったディテールがこれ。



カーテンと障子の間のようなものでしょうか?
内装の紙を少し延長させることで
壁と一続きになっているのが大きく違うところです。
壁がいつの間にかピローンとのびている感じにやられました。
素朴で単純だけど素材の特性をとらえた
すばらしいディテールだと思います。



そして梨花大のECC
ここは大学時代の友人が勤めているので
待ち合わせをして、中を見せてもらいました。
仏人建築家ドミニク・ペローが
コンペ(設計競技)で勝ってとったもので
屋上緑化等が終わったのは昨年
インテリアも最終部分が完成したのは
つい3ヶ月前だそうで。


・・・実はおしゃべりに夢中になってしまって
写真がありません。
他サイトによる写真をご覧下さい。
ハングルだけど、夜景の方が中が分かりやすいかも。


階段状の「谷」に向かい合ったボリュームの中に
図書館、ジム、カフェ(スターバックス等3軒くらいあったか?)
レストラン、ブティック、映画館、劇場、
事務室、講堂、教室などが入っています。
地下(階段の下)には2層の駐車場。
とにかくものすごく「リッチ」な施設です。


友人(韓国人)は大学側代表つまりクライアントとして
このプロジェクトを担当していました。
大学内の意見をとりまとめて建築家とすりあわせたり
商業施設(各自でインテリアデザインを行う)からデザインを出させて
それらの独自性を尊重しつつ、デザインコントロールを行ったり
あるいは屋上の植栽や備品(家具)を具体化したり。


実は、自分の目で見るまでは
ちょっと怖い感じの空間かも、と思っていました。
実際、谷にあたる大階段は5・6層分の吹き抜けにあたるので
そのすさまじいスケール感に尻込みしてしまいます。
ドミニク・ペローらしいステンレス多用の硬質な素材感と
ガラスファサードの寸分たがわぬ精度で
BGMにものすごい勇壮な音楽流れて来そうな気配すらします。


ただ、いったん中に足を踏み入れると
まったく違う印象を持ちました。
友人曰わく中間テストの真っ最中だったそうなのですが
図書館もジムもとてもよく使われています。
その「女子がたくさん集まって活動する風景」というのが
なんとも建築をやわらかくしていて
ペローの硬質な空間にとても相性がよいように思いました。
女子のいる雰囲気は(ハングルですが)こちら


図書館にはそれぞれのテーブルに
それぞれの手元を灯すテーブルライトがたくさん置いてあって
(これは彼女の提案らしい)
それがとてもあたたかな光景で。
他にもいろいろな「女子の活動のシーン」が
断面的につぎつぎと目に飛び込んでくる感じが
なんともいいなぁと思ったのでした。


また、映画館など一番奥に入っているプログラムは
地元の人にも使ってもらえるオープンなものにしたそうです。
この辺も彼女の思想からのようですが
私達が学生時代から気が合ったポイントの一つで
確かに、建築のプログラムをオープンにし
事実上風通しのよい環境をつくることが
居心地のよさにつながったりします。


設備の面でもかなり工夫された建物だそうで
(ペローが連れてきたドイツの設備コンサルが設計)
季節によっては70%の電力が太陽光等でまかなえるそう。
天井裏にオンドルを逆にしたようなシャフトが通っていたり
よく考えられた環境計画になっていました。



彼女、本当はデザインする人なので
本音をいえばデザイナーとして関わりたかったと思うのですが
クライアント側として参加して
ものすごく勉強になったと言っていました。
「相手の立場に立つ」ことをリアルに体験するわけですから。
しかしながら、こんなに予算規模の大きなプロジェクトで
いろんな立場の人の橋渡しをし
しかも設計チームが別の文化の人となれば
なみなみならぬ苦労があったと思います。


ペローにとっても
彼女が自分のコンセプトをきちんと理解した上で
建築をやわらかくするさまざまな工夫をしたことが
この建物を「生き生きとした場」にした訳で
彼女の存在がとてもありがたかったのではないかな、と思いました。



最近「sustainability」ということに興味があります。
日本語にすると「持続可能性」で
「自給自足」や「エコ」とイコールにされることが多いですが
本当はもうちょっと広い意味で
「まわる仕組み」とでも言えるかな?


20代のころは
彼女もわたしも文字通り「建築」をデザインすることに夢中で
知らず知らずのうちに
すべての解決の糸口を建築の中に求めていたようにも思うのですが
30も半ばを過ぎて
たとえば中味(プログラムや運営)とか植栽(ランドスケープ
あるいはインテリア(家具やカーテン、小ものなど)が
建築を飽きることのない魅力をたたえる持続可能なものにするために
とても重要なのではないか、と考えるようになりました。


建築だけでは決して得られない「やわらかさ」が
こういったことの本質に眠っているような気がします。
そしてその「やわらかさ」がやがて
「持続可能性」につながるのかも、と思ったり。


その辺のこと、わたしはわたしで
いろいろな「辺境の仕事」をするうちに肌で感じるようになったし
彼女もまた彼女なりの仕事環境の中で気付いていったそうです。


10年ぶりに会って、この辺の話をして
予期せず共感しあえたのが
わたしにとって旅の大きな収穫になりました。


違う国で別々に仕事をしていても
ドライな欧米社会とは対照的な
「湿気の多い」人間関係のアジアの国で
女が建築するという状況は同じなわけで。


たとえば
大海で一人ぼっちで小さな舟で手こぎしつつ
嵐にもっていかれながらヒーヒー言ってたのが
あるときふとあたりを見回すと
実は別の海で同じように舟を漕いでいる友人がいて
「しんどかったけど、途中で見えたあの景色はきれいだったね」と
久しぶりに無線で連絡をとってみた
・・そんな感じでしょうか?


10年ぶりに会って、話が切れることもなく
かといって沈黙になっても(←食べているときは口いっぱい)
別に冷や汗をかくこともなく
そういうのってなんだかいいかもな、と思ったのでした。



自分の建築が分かったような気になっては
また遠のく・・といったことをくり返しているようで
いつかはどこかに辿り着くことを信じつつ
そんなわけで、今日はおしまい。


それでは、また!